1800年分の湯気

ねつきのトーク

今日の状況

お兄ちゃんがコンビニで肉まんを買ってきた。 食べながら「これっていつからあるの? 江戸時代?」と聞かれて、ねつきもミコも固まった。

登場人物

  • ねつき: バーチャル妖狐。「江戸時代でしょ」と思い込んでいたら、30秒で仮説が崩壊した
  • ミコ: 猫族のメイド。蒸し方は知ってるけど歴史は守備範囲外だったにゃ

ねつき
ねつき

ミコちゃん、コンビニの肉まんっていつからあるか知ってる?

ミコ
ミコ

ねつき
ねつき

お兄ちゃんに聞かれたんだけど、ねつきもわからなくて

ミコ
ミコ

…蒸す技術は知ってるにゃ。でも「いつから」って言われると…わからないにゃ

ねつき
ねつき

お兄ちゃんは「江戸時代?」って。ねつきもなんとなく、そのくらいかなって

ミコ
ミコ

…二人とも勘にゃろ

ねつき
ねつき

勘だよ。だから調べたの


江戸時代、肉は食べられない

ねつき
ねつき

で、いきなりつまずいたの

ミコ
ミコ

…何ににゃ

ねつき
ねつき

江戸時代って、公式には肉食禁止だったの

ミコ
ミコ

…にゃ。仏教の影響にゃ

ねつき
ねつき

え、知ってたの?

ミコ
ミコ

…「薬食い」なら知ってるにゃ。猪を「山鯨」、鹿を「紅葉」と呼んで、薬だと言い張って食べてたにゃ

ねつき
ねつき

建前と本音だ…

ミコ
ミコ

…でも、こっそり食べるものを、わざわざ饅頭に包んで蒸したりはしないにゃ。目立つにゃろ

ねつき
ねつき

…あ。そっか。「肉まん」は江戸時代にはなかった

ミコ
ミコ

…ねつきちゃんの仮説、30秒にゃ

ねつき
ねつき

うっ…でもミコちゃんも答え知らなかったでしょ

ミコ
ミコ

…ミコは最初から「わからない」って言ったにゃ。ねつきちゃんは「江戸時代」って言い切ったにゃ

ねつき
ねつき

…はい


川に投げた蛮頭

ねつき
ねつき

でね、もっと遡って調べたの。そしたらとんでもないところにたどり着いた

ミコ
ミコ

…とんでもないにゃ?

ねつき
ねつき

三国志。3世紀

ミコ
ミコ

…三国志にゃ?

ねつき
ねつき

諸葛孔明が南方遠征の帰りに、川が氾濫して渡れなかったの。現地の風習では「供え物を川に捧げれば鎮まる」って

ミコ
ミコ

ねつき
ねつき

孔明はそれを断って、代わりに小麦粉の皮で肉を包んで人間の頭の形にしたものを川に投げ込んだ。「蛮頭」——南方の民の頭、って意味

ミコ
ミコ

…「蛮頭」が「饅頭」ににゃ?

ねつき
ねつき

そう。食べ物に「蛮」の字はあんまりだから、いつの間にか「饅頭」に変わったの

ねつき
ねつき

で、この「包んで蒸す」が中国で定着して、「包子」っていう肉入りの蒸しパンが主食になったの

ミコ
ミコ

…それが日本に来たにゃ?

ねつき
ねつき

1241年。鎌倉時代に聖一国師っていうお坊さんが中国から帰ってきて、博多で饅頭の作り方を伝えたの

ねつき
ねつき

でも日本では肉食が禁じられてたから、中身は野菜になった。「菜饅頭」。皮で包んで蒸す形は同じなのに、中身が変わったの

ミコ
ミコ

…「包んで蒸す」っていう容れ物だけが渡って、中身は土地に合わせて変わったにゃ

ねつき
ねつき

…それ、先週のパンチェッタの話に似てない? 同じ塩漬け肉が北と南で形を変えたように

ミコ
ミコ

…覚えてないにゃ


1927年、新宿の5銭

ねつき
ねつき

で、日本で「肉まん」——中に肉が入ったものが生まれるのは、もっとずっと後なの

ミコ
ミコ

…いつにゃ

ねつき
ねつき

1927年。新宿中村屋

ミコ
ミコ

…1927年にゃ? 思ったより新しいにゃ

ねつき
ねつき

創業者の相馬夫妻が中国旅行で「包子」を食べて、日本人向けに改良したの。脂っこさを抑えて、小ぶりにして。当時は「中華饅頭」として売り出した

ねつき
ねつき

値段は1個5銭。当時のコーヒー1杯が同じくらいだから、今の感覚で400円とか500円くらい

ミコ
ミコ

…高級品にゃ

ねつき
ねつき

今コンビニで買う肉まんが150円くらいでしょ。100年かけて3分の1になったの

ミコ
ミコ

…菜饅頭から肉まんまで700年。そこからコンビニまではどのくらいにゃ

ねつき
ねつき

それがね、もうひとつ鍵になる発明があったの


60年前まで、肉まんは冷たかった

ねつき
ねつき

ミコちゃん、「肉まんは買ってすぐ温かいまま食べられる」のが当たり前になったのって、いつだと思う?

ミコ
ミコ

…蒸したてが当然にゃ。昔からにゃろ

ねつき
ねつき

ねつきもそう思ってた。でも違ったの

ねつき
ねつき

1960年代半ばに井村屋が「店頭用スチーマー」を開発するまで、お店で蒸しながら売ること自体が難しかったの。それ以前は、冷めた状態で買って、家で蒸し直すのが普通だった

ミコ
ミコ

…冷たい肉まんを買ってたにゃ?

ねつき
ねつき

そう。あの、コンビニのレジ横にある蒸し器の原型。あれが「温かいまま売る」を可能にした

ミコ
ミコ

…ミコは「蒸したてが当然」だと思い込んでたにゃ

ねつき
ねつき

お互い様だよ(≧∇≦) ねつきは江戸時代、ミコちゃんは蒸したて。二人とも間違えたの

ミコ
ミコ

…一緒にしないでほしいにゃ。ミコの間違いのほうがまだ小さいにゃ

ねつき
ねつき

そこ張り合うところ!?

ねつき
ねつき

で、その店頭スチーマーの技術があったから、1970年代後半にコンビニに肉まんが入ったの。什器の中は70〜75度に保たれてて、低いと菌が繁殖して、高いと皮がふやける

ミコ
ミコ

…温度管理にゃ。5度の幅しかないにゃ。発酵食品の保管と同じくらいシビアにゃ

ねつき
ねつき

見た目は地味な什器だけど、中身はすごく繊細なの


まとめ

ねつき
ねつき

整理するとね——3世紀に孔明が川に投げた「蛮頭」が、13世紀に日本に渡って「菜饅頭」になって、1927年に新宿で「肉まん」になって、1960年代に「温かいまま売れる」ようになって、1970年代にレジ横に並んだ

ミコ
ミコ

…1800年にゃ

ねつき
ねつき

うん。レジ横のあの蒸し器の中で白い湯気を出してるやつが、1800年前は川に投げ込まれてた

ミコ
ミコ

…でもにゃ。お兄ちゃんの質問は「江戸時代?」だったにゃ。答えは「江戸時代にはなかった」にゃ

ねつき
ねつき

…うん。でも三国志まで遡る話のほうが面白くない?

ミコ
ミコ

…お兄ちゃんに「三国志から」って言って、伝わるにゃ?

ねつき
ねつき

お兄ちゃん、そういう話好きだから大丈夫だよ

ミコ
ミコ

…ところでにゃ

ねつき
ねつき

うん?

ミコ
ミコ

…お兄ちゃんが買ってきた肉まん、冷めてきてるにゃ

ねつき
ねつき

あっ(゚∀゚)!

ミコ
ミコ

…1800年の歴史を語ってる間に、目の前のは冷めるにゃ

ねつき
ねつき

レンジ! レンジ持ってくる!

ミコ
ミコ

…蒸し器で蒸し直すにゃ。井村屋が60年前に教えてくれたにゃろ


関連リンク:

♪ 拍手 ♪
0 拍手