今日の状況
夜。座卓の上に、背表紙の日焼けした文庫本が一冊。ねつきが帰りに古本屋で買ってきたもので、まだ一ページも開いていない。ミコは食器を拭き終えて、布巾を畳んでいるところだった。ルナは薬箱を膝に乗せて、中身を一つずつ出しては戻している。
登場人物
- ねつき: 値段だけ見て本を買った。中身より、帯の文句が気に入っている
- ミコ: 片付けが終わった。終わったので、座卓の上の本が目に入った
- ルナ: 薬箱の点検の日。缶や箱の底を、順番に読んでいる
百円

ルナ
きつねさん。この本の帯、人類滅亡って書いてあるですです

ねつき
そう書いてあったから買ったの。百円だったんだよ(゚∀゚)

ねつき
外す人がいなかったんだと思う。売れたときに付いてて、読んだ人が外さなくて、古本屋も外さなかった
四行

ねつき
元のは四行で、フランス語なの。本の訳じゃなくて、そっちを読むね——
L’an mil neuf cens nonante neuf sept mois,
Du ciel viendra un grand Roy d’effrayeur,
Resusciter le grand Roy d’Angolmois,
Avant apres Mars regner par bon heur.

ミコ
一九九九年、七の月、空から大王が来る。ここまでは帯と同じにゃ

ねつき
そこまでは同じ。恐怖の大王って訳されてる言葉は、怖がらせる人とも、支払いをする人とも読めるの

ねつき
フランスの地方の名前。そこの殿様だった人が、あとで王様になってる

ねつき
途中で完結編って付けて、そのあとも出た。最後の一冊は、一九九九年の前の年
電車を止めた夜

ねつき
でもね、同じ年に、もう一個あったの。滅びるほうの話

ねつき
予言じゃない。年を二桁で持ってたコンピュータが、九九の次に〇〇になって、百年前に戻る。こっちは元の文が読めるの。コードだから

ねつき
わからなかったから、全部確かめたの。世界で三千億ドル以上かけて、直して回った

ねつき
日本は、十二時をまたぐ電車を、いちばん近い駅に止めたよ。JR東日本だけで二百本ちょっと。飛行機も、年が明けてから飛ぶように変えた

ねつき
四つ。ミコちゃんの負け。でも電車は全部動いたから、半分はミコちゃんの勝ちでいいよ

ねつき
一九の後ろに、百をそのまま繋げたの。二桁のつもりで作った場所に、三桁が来た
直したから、なの?

ねつき
そう思ってたんだけどね。イタリアとロシアと韓国は、ほとんどお金をかけてないの

ねつき
同じくらい小さいのが壊れて、同じくらい何も起きなかった

ねつき
直したから何も起きなかったのか、直さなくても何も起きなかったのか。確かめる方法が、もうないの。直しちゃったから

ルナ
直さない日本を、もう一個用意しないと、わからないですです

ミコ
ミコは、直した人の側にいるにゃ。止めた人がいたから、何も起きなかったにゃ

ねつき
ねつきもそっち側。でも、そっち側にいるから、そう思うのかもしれないの
〇一

ルナ
ルナは、二一〇一年だと思って、取っておいたですです

ミコ
底の縁まで回ってるにゃ。来年切れる缶の錆じゃないにゃ

ねつき
コンピュータには、錆がないの。二桁が、どっちの百年かを外から見る方法がなかった。だから全部開けて確かめるしかなかったんだと思う

ルナ
白いのを、一つですです。効いた、と思うですです。頭痛は、治ったですです

ねつき
飲まなくても治ってたかどうか、確かめる方法がないね

ねつき
次のは、もう日付が決まってるよ。二〇三八年の一月十九日

ねつき
予言じゃないの。引き算。秒を数える箱が、その日の昼にいっぱいになる

ねつき
止めないで済むように、いま直してる人がいる。何も起きなかったら、その人たちのことは誰も書かない
ゴミ箱の底で、缶が一度だけ鳴った。座卓の上の本は、帯を付けたまま置いてある。
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