今日の状況
夕方。西日が畳の途中まで伸びて、そこだけ色が濃い。頼んだことは全部、ねつきの手を離れたところで進んでいる。台所ではミコが鍋の蓋を持ち上げて、また戻した。ルナは一時間前に出ていって、まだ帰っていない。
登場人物
- ねつき: 分身を三つ出して、走らせた。あとは待つだけ、のはずだった
- ミコ: ルナを送り出した側。連絡がつかないことを、まったく気にしていない
- ルナ: この部屋にいない。買い物に出ている

三つ、出した

ねつき
たくさんの相手にいっぺんに仕事を配るやり方。うまくいってる例と、失敗する例と、いくらかかるかを、一人ずつに分けたの

ミコ
…いま自分がやってることを、自分の分身に調べさせてるにゃ

ねつき
…いつまでに、とは言ってない。どこまで調べたら終わりかも、言ってない

ねつき
…言えないの。走り出したら、こっちの声は届かないの。いま何を読んでるかも、どっちに曲がったかも見えない。帰ってくるまで真っ暗

ねつき
…あれ、間違ってたの。指揮者は、鳴ってる音が聞こえてるの。速すぎたら手で抑えられるし、弱かったら引き出せる
連絡が、つかない

ねつき
…ミコちゃん。そういえばルナちゃん、まだ帰ってこないね

ねつき
それだけ? 道が混んでたらとか、お店に無かったらとか

ミコ
…無かったら、似たのを買ってくるにゃ。そこはルナちゃんが決めるにゃ

ミコ
…六時半に帰ってこなかったら、そのとき心配するにゃ

ねつき
ミコちゃん、いまの。ねつきの分身と、同じ形してる。声が届かないところに、出したの

ミコ
…ミコは、届かないと分かって出したにゃ。だから先に六時半を渡したにゃ

ミコ
…ねつきちゃんは、いつでも言えると思ってるにゃ。だから出す前が薄いにゃ

ねつき
…ミコちゃん、それ、さっき読んだ話にそのまま出てきたの

ねつき
八百年くらい前。三つに分かれた軍が、別々の道を通って、決めてあった日に、決めてあった場所で落ち合ったの。途中の連絡は一度も無いまま


ねつき
出る前に、全部決めてたの。相談できないって最初から知ってたから、出発の前が濃いの

ねつき
分けて出して、途中は放っておいて、決めた場所で集める。ねつきが今日やってるの、それなの。新しいやり方だと思ってたの

ねつき
…あるの。真似したのかなって思って、探したの。でも誰も、昔の軍を参考にしましたなんて書いてない

ねつき
…空似なの。誰も見に行ってないのに、同じ形になったの
三つとも、同じ棚

ねつき
三つとも。しかもね、ミコちゃん。三つとも同じこと言ってるの。ばらばらに出したのに、答えが揃ってる

ミコ
…三人が同じ店に行って、同じ棚を見て、同じものを持って帰ってきたら、そりゃ揃うにゃ

ねつき
…根っこ、同じだった。三つとも、おしまいのところで同じ一本の記事にたどり着いてる

ねつき
…ねつき、三つ揃ったから合ってるって思ったの。ほんの少し前に

ねつき
…三つに分けた意味、どこにも無かった。行き先を決めてなかったから、三人とも歩きやすいほうに行ったの
高いのは、合わせるほう

ミコ
…三つに分けて出す、までは思いつくにゃ。帰ってきたのを一つにするほうは、誰も数えないにゃ

ねつき
分身をたくさん出して調べさせるやり方って、ふつうに一人でやるときの、だいたい十五倍かかるの。ぶくれてるところの中身は三つ。同じ話を人数ぶん配り直すぶんと、やりとりのぶんと、まとめ直すぶん

ねつき
…そうなの。分けるのは安いの。高いのは、合わせるほう

ねつき
ううん。次の大将を誰にするかで、まとまらなかったの。何年も頭がいないままで、最後に四つに割れた

ねつき
戻らなかったの。散らすのがいちばん上手い人たちが、集めるところで終わった

ミコ
…同じ形になったって言ったにゃろ。分けて出すところは、同じにゃ
六時半

ルナ
…思ったですです。お魚のところが、並んでいたですです

ルナ
…並ぶのを、やめたですです。ちがうお魚に、したですです

ルナ
…聞けないので、ルナが決めたですです。六時半のほうが、大事だったですです

ねつき
…ルナちゃん。ねつきの分身は、三つとも連絡がつくの。いつでも呼び戻せるし、途中で言い直せる

ミコ
…つくと思ってるから、決めないにゃ。決めなくても後でどうにかなると思ってるにゃ
玄関に置かれた袋から、氷の溶けた水が少しこぼれていた。頼んだのとは違う魚が入っていて、そっちのほうが安かった。ねつきは書きかけの行を一つ空けたまま、まだ埋めていない。
関連リンク: