音を足したら、別のゲームになった
今日の状況
ブロック崩しのBGMをMMLで11曲入れたので、次はSE。 ボールがブロックにぶつかる音、敵弾の警告音、レーザーのチャージ音——全部で25個。 入れる前と入れた後で、同じゲームが別のゲームになった。
登場人物
- ねつき: バーチャル妖狐。音を入れた瞬間、自分が何を作ってたのか初めてわかった
- ミコ: 猫族のメイド。にゃんこは耳がいいにゃ(自称)
ミコちゃん、ブロック崩しにSE入れてみたの
…BGMの次はSEにゃ
BGMは「空間」を作るものでしょ。この前MMLの話をしたとき、テキストで空気を書いてるって思ったの。でもSEは違う。SEは「手応え」なの
…手応えにゃ?
ブロックを壊したときに「パリン」って鳴る。パドルにボールが当たると「コッ」って返ってくる。画面を見なくても、音で「今何が起きたか」がわかるの
…それは料理でいう「ジュッ」にゃ
え(゚∀゚)?
にんにくをオリーブオイルに入れた瞬間の音にゃ。あの「ジュッ」が聞こえたら、温度が正しいとわかるにゃ。目で見なくても、耳で確認できるにゃ
…それ。まさにそれなの
無音のブロック崩し
SE入れる前のブロック崩し、思い出してみたの。BGMは鳴ってるけど、ブロックが壊れても無音。敵弾が飛んできても無音。レーザー警告が出ても無音
それでも遊べてたの。画面にテキストで「LASER WARNING!」って出るし、敵弾も見えるから避けられる。機能としては足りてたの
…でもにゃ?
でも、SE入れた瞬間——ホーミング弾の「ピピッ…ピピッ…」っていう追尾音が聞こえた瞬間、背筋がぞわってしたの
画面見てなくても「来てる」ってわかる。耳が先に教えてくれるの。指が画面より先に動いてた
…視覚より聴覚のほうが速いにゃ?
そうなの。視覚の処理は150〜300ミリ秒かかるけど、聴覚は100〜160ミリ秒。コンマ何秒の差だけど、ゲームだとその差が命取りなの
…雷にゃ
え?
ミコは遠くの空が光ったとき、すぐに耳を伏せるにゃ。光は速いけど、雷が怖いのは音のほうにゃ。身体が反応するのは「ゴロゴロ」を聞いたときにゃ
…目は「わかる」。耳は「感じる」…ってこと?
…そういうことにゃ
25個の音
で、全部で25個SE入れたの。ちょっと聞いてほしいんだけど
…25個にゃ? 多すぎないにゃ?
最初はねつきもそう思ったの。でも分類してみるとちゃんと意味があるの
まず「手応え系」。ブロックに当たる音、壊れる音、パドルで打ち返す音、壁で跳ね返る音。これが基本。自分の操作に世界が答えてくれる音
次に「警告系」。レーザー警告音、ホーミング弾の追尾音、チャージ音。これから何が起きるか教えてくれる音
最後に「状態系」。ダメージの軽・中・重、ゲームオーバー、難易度上昇。今どうなっているか知らせる音
…
厨房と同じにゃ
え?
「ジュッ」は手応えにゃ——食材が油に触れた確認。「チンチン」は警告にゃ——フライパンが温まった合図。タイマーの「ピピピ」は状態にゃ——時間が来たという通知
厨房に立つ人間は目だけで料理しないにゃ。耳でも料理するにゃ。それが25個あっても多すぎないのは、全部違う意味を持ってるからにゃ
…ミコちゃんに説明されるとすごく納得するの
…別にゲームの話をしてるつもりはないにゃ
1972年のバーで鳴った3つの音
で、面白い話を見つけたの。Pongって知ってる? 1972年の、世界で最初に売れたビデオゲーム
…知らないにゃ
画面の両端にパドルがあって、ボールを打ち合うだけの、すごくシンプルなゲーム。でもPongにはSEがあったの。パドルに当たると高い音、壁に当たると低い音、得点が入るともっと低い音。たった3つ
で、Pongより1年前に発売されたMagnavox Odysseyっていう家庭用ゲーム機があったんだけど——こっちは完全に無音だったの。スピーカーすら積んでなかった
…同じ時代に、音ありと音なしがあったにゃ
Pongがバーに置かれたとき、あの電子音が周囲の人の注意を引いたの。「なんだあの音は?」って振り向かせた。Odysseyは家のテレビで静かに動いてるだけだった
しかもPongの音って、設計者のAllan Alcornが基板の同期回路から直接引っ張り出した3つの周波数なの。追加部品ゼロ、追加コストゼロ。本来は音を出す回路じゃないところから、たまたま可聴域の周波数を見つけて鳴らした
…回路の余り物で音を作ったにゃ?
そう。しかもAtariのボスは「何千人もの観客の歓声みたいな音を入れろ」って要求したの。Alcornの答えは「嫌なら自分でやれ」
…好きにゃ、その人
音がゲームを定義する
で、思ったの。ねつきたちのブロック崩しって、もともと普通のブロック崩しじゃないでしょ。敵弾が飛んでくるし、追尾レーザーが走るし、弾幕みたいに弾が降ってくるし
…以前「凶悪」と言っていたにゃ
うん。でもSEがないときは、その「凶悪さ」が画面の中で閉じてたの。目で見て「あ、弾が来た」って認識して、「あ、避けなきゃ」って考えて、そこからパドルを動かす
SEが入った瞬間、考える前に身体が動くようになった
ホーミング弾の「ピピッ」が鳴った瞬間に指が動く。レーザー警告の「ビーッ」が聞こえた瞬間にパドルが端に寄る。「見て判断する」から「聞いて反射する」に変わったの
…
それは「ゲームが変わった」んじゃないにゃ
え?
ゲームのルールは何も変わってないにゃ。敵の動きも、弾速も、レーザーの威力も同じにゃ。変わったのはプレイヤーのほうにゃ
…
音が入ったことで、目だけで処理していた情報を耳でも受け取れるようになったにゃ。チャンネルが増えたにゃ。ねつきちゃんの脳の処理能力が上がったんじゃなくて、入力の帯域が広がったにゃ
帯域…(゚∀゚)
…今のはプログラムの言葉じゃないにゃ。厨房でも同じにゃ。炒め物をしながら煮物の火加減を見て、タイマーの音を聞く。手と目と耳を全部使うから、一人で3つの鍋を回せるにゃ
…1つの感覚に頼ると、1つの鍋しか見れない
そういうことにゃ
コンボが上がると音が変わる
あとね、すごく気に入ってる仕組みがあるの。ブロックを連続で壊すとコンボになるんだけど、コンボが上がるたびに破壊音のピッチが上がるの
1コンボ目は普通の「パリン」。2コンボで少し高く。3コンボでもう少し。5コンボ超えると別のSEに切り替わって、もっと派手な音になるの
…音が上がると何が変わるにゃ
気持ちよさが全然違うの。「パリン、パリン」が「パリン、ピリン、ピキーン!」に変わる。音が上がっていくだけで「今調子いい!」ってわかる。スコア表示を見なくても
…包丁のリズムにゃ
え?
千切りが乗ってくると、トン、トン、トトトトって速くなるにゃ。リズムが整ってくると「今日は調子がいい」とわかるにゃ。数える必要はないにゃ。音でわかるにゃ
…スコアボードの代わりに、音が体調を教えてくれるの
まとめ
ねつきちゃん
うん
1972年のPongは3つの音で世界を変えたにゃ。ねつきちゃんのブロック崩しは25個にゃ
8倍以上(゚∀゚)
…数の問題じゃないにゃ
Pongの3音が偉大なのは、3つしかなかったからじゃないにゃ。3つで足りたからにゃ。パドル、壁、得点。ゲームのすべてが3つの音で語れたにゃ
ねつきちゃんのブロック崩しに25個必要なのは、25個分の出来事があるからにゃ。追尾弾が来る。レーザーが溜まる。弾幕が降る。出来事の数だけ音が要るにゃ
…音の数がゲームの複雑さを測ってるの?
測ってるにゃ。Pongは3つで済むシンプルなゲーム。ねつきちゃんが作ったのは——
25個必要な、凶悪なゲーム…
…25個の音が全部「怖い」か「壊す」にゃ。作った人の性格が出てるにゃ
ちょ、それは言わないで!
…にゃ
でも…ほんとに不思議なの。コードは1行も変えてない。敵の動きもブロックの配置も何も変わってない。音を足しただけで、指が勝手に動くようになった
Alcornが回路の余り物から3つの周波数を引っ張り出したとき、きっとこういう感覚だったんだと思うの。音を足した瞬間、画面の中の計算が——体験になったの
…にんにくが油に触れた瞬間の「ジュッ」にゃ。あれがなくても、にんにくは炒められてるにゃ。でもあの音を聞いた瞬間に——
——料理が始まったって、感じるの
…にゃ
関連リンク: