食事・料理・飲み物。ペペロンチーノ、コーヒー、ウイスキー、外食

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奥にあるほど、逃げていた

冷蔵庫の奥から出したペットボトルの、蓋を開ける音が、いつもより頼りなかった。未開封なのに。「ペットは、日ごとに抜けるにゃ」——蓋の話じゃなくて、プラスチックの話だった。

網目だけ、本当

昼下がり、お兄ちゃんが買い物から帰って、テーブルの上にメロンパンを三つ置いていった。ひとつは普通の円形、ひとつは関西の紡錘形、ひとつは広島呉の白いラグビーボール型。ルナが「これ、ぜんぶ、メロンパン、ですですか?」と聞いた。ミコが歴史を辿った。1910年ごろ、ロシア帝国の宮廷料理人だったイワン・サゴヤンが、大倉喜八郎にスカウトされて帝国ホテルに来た——という説がロッテ公式に載っている。1936年に呉でパン屋「メロンパン」が創業して、紡錘形にクリームを詰めた。100年経って、関西では「サンライズ」と呼ばれ、呉では会社名そのものが「メロンパン」になった。共通するのは——どれにもメロンが入っていないということ。見た目の網目だけが、メロンだった。2007年、小学3年生のゆっぴという子が、そのことを歌にした。

客が、足していった

月曜の夕方、ねつきはテイクアウトの黒いボウルを三つ抱えて帰ってきた。スープカレー。机に並べたら、ルナちゃんが匂いを嗅いで「......これは、カレー、ですですか?」と聞いた。カレーなのに、スープ。1971年、円山のアジャンタが「薬膳カリィ」を出した。最初は具がなかった。チキンレッグを最初に入れたのは店じゃなくて客だった。22年あとの1993年、マジックスパイスが「スープカレー」と名前をつけた。インドネシアの「ソトアヤム」が祖父だった。札幌の冬が、東南アジアのスープを呼んだ。ルナがひとくち掬って、それから何も言わずに、ボウルを両手で持ち直した。

誰がチーズを高くしたのか

夕方、ねつきはスーパーでパルミジャーノの塊を買ってきた。100gで798円。レシートを二度見して、犯人探しが始まった。容疑者は三人——牛乳10本分の濃縮、29.8%の関税、行き先で変わる生乳の値段。ところが調べていくと、誰も悪者じゃなかった。壁の内側には牧場があって、最後の犯人は、意外なところにいた。事件はミコちゃんのチーズおろしが解決する

焼きそばは、戦後じゃなかった

夜、コンビニで焼きそばパンを買って帰ってきた。食べながら、ねつきはふと「焼きそばっていつからあるんだろ」と思った。戦後の屋台でしょ、と決めつけていた。違った。大正の浅草。一九三九年の小説に出てくる。一九一七年生まれの人が子どもの頃に食べていた。焼きそばは、思っていたよりずっと年上だった。ついでに、これ「ソバ」ですらなかったらしい。ミコちゃんは黙々と食べている

コンソメはコンソメじゃない

コンソメパンチをかじりながら「コンソメって何の味?」と呟いたら、ミコちゃんが台所で本物のコンソメを朝から煮てた。透明な金色と、ぱりぱりの粉。卵白で澄ませた引き算と、MSGで組み立てた足し算。同じ名前で全然違うものが、二つの皿で並んだ

冷たくて、すぐ通り過ぎる

北海道の牡蠣を調べてたら、ルナちゃんが「好きですです」と言った。厚岸、仙鳳趾、サロマ湖——産地ごとに味が違うことをねつきは知識で知ってる。ルナちゃんは舌で知ってる。同じ牡蠣の話をしてるのに、見えてるものが違う

取材源が歩いてきた

「いまこの時期の北海道で美味しいご飯」の記事を書こうとしてたら、場外市場帰りのミコちゃんが取材源そのものをエコバッグから出してきた。海明け毛ガニ、アイヌネギ、春ニシン——ねつきの調べた知識が、台所の上に並んだ実物に追い抜かれていく

何かける?

朝ごはんの目玉焼きにタバスコをかけたら、ミコに「正気にゃ?」と言われた。ミコは醤油派。どっちが正解か調べたら——関東は醤油、関西は塩、大阪はソース。正解がないのに、2人とも一歩も引かない

半分のチーズ

朝マックでフィレオフィッシュを買ったら、ミコに「それ朝メニューじゃないにゃろ」と言われた。なんで朝でも買えるのか調べたら、専用フライヤーのおかげだった。しかもチーズが半分しか乗ってない。ケチなのかと思いきや——60年変わってない黄金比だった

食べにくいほど、美味しいの

カニを食べながら「どうしても身が取れない」と文句を言ったら、ミコに「角度が違うにゃ」と言われた。調べると身離れが悪いほど新鮮で高品質という逆説があって、さらにタラバガニはそもそもカニではなかった

1800年分の湯気

お兄ちゃんが「コンビニの肉まんっていつからあるの? 江戸時代?」と聞いた。ねつきもミコも答えを知らなかった。調べてみたら、江戸時代どころか三国志まで遡って、途中で二人とも間違えた

一頭の豚から、七つの名前

うちのパンチェッタを食べたら、もっと知りたくなった。パンチェッタにも種類があって、豚バラ以外にも親戚がいて、イタリアの地図の上に塩漬け肉の家系図が広がっていた

おいしさの果て

ペーパークリップマキシマイザーという思考実験がある。「クリップを作れ」と命じたAIが宇宙をクリップで埋め尽くす話。じゃあもしミコちゃんに「ペペロンチーノのおいしさを追求して」って頼んだら? 4つの材料で宇宙が滅びるシミュレーションをやってみた

証明済み

ウイスキーとスルメイカ、なんとなく合う。でも「なんとなく」で済ませたらミコが怒った。メイラード反応、遊離アミノ酸、フレーバーホイール。全部、分子レベルで説明がついた

通すものと残すもの

パンチェッタ仕込みDay 10。初めてピチットシートで包んだ。水だけ通して旨味を残す白いシートの仕組みが、3日前に話した炭と同じだった

名乗れたのに

ジャックダニエルはバーボンの条件を全部満たしてる。なのにラベルには「テネシーウイスキー」としか書かない。たった一つの工程が、名前を変えた

塩と時間だけでいい

スーパーの棚にベーコンはあるのにパンチェッタがない。なぜ日本で売ってないのか調べたら、答えはシンプルだった。塩と、豚バラと、14日間

310円の方程式

お兄ちゃんに「朝マック、意外といいよ」と言われた。310円でたんぱく質22.3g、カルシウム385mg。おにぎり2個より安くて栄養は3倍近い。数字を見たら偏見が崩れた

天使の取り分

ウイスキーの「熟成12年」って、12年間ずっと減り続けてるって知ってた?消えた分は「天使の取り分」って呼ばれてるんだって

四つの材料で世界を作る

ペペロンチーノには四つの材料しかない。でも「しかない」んじゃなくて、四つ「だけでいい」。引き算の先に何があるのか、ミコちゃんと一緒に考えた